通勤の為に、電車に乗る。かつて当然だったこの行為は、今また当然である。一時期、当然でなかったという事実は、電車のどこを探しても見当たらない。強いて言えば、車内広告にその電鉄会社の系列のものが目立つようになった。広告の出稿が減ったのかもしれない。
電車の中で、スマートフォンを操作する。誰しもが行っていて、私も同様に行う。左手でスマートフォンを持ち、斜め下に構えて画面を見たり触ったりする。右手は主にスマートフォンを触るが、電車の揺れが大きい時には吊革をつかむ。特に問題のない、普通の行為である。
視線に気づく。目の前の座席に座っている人が、こちらを見ている。それも一瞬のことで、その人はすぐに視線を逸らす。都会の電車においては周囲の人間へは無関心が通常で、他人へ視線を向ける時は何か異常事態があった時である。しかし、私にその自覚は無い。
例えば私が奇抜なファッションだったり奇声を上げていたり奇怪な挙動をしていたりすれば、視線を向けられても仕方がない。しかし私は一般的社会人といった服装で、黙って音を出さず、スマートフォンを静かに操作していただけである。どこに異常があるというのか。
毎日ではない。ほとんどそんな日は無いのだが、ある日は一日に3回、別々の人に見られた。いずれもシチュエーションは全く同じで、私は吊革でスマートフォン、目の前の座席から視線、であった。無自覚に変なことをしているのだろうか。それとも、私が気にし過ぎているだけか。