風呂に入っていた。湯船から上がり、ふと右足の甲を見ると、皮膚の一部が赤くなっていた。最初は蚊に食われたりしたのだろうか、変なところを食う蚊もいるものだ、と思ったが、どうも違うようだ。というのも、その赤い部分の形が少し特殊だったからである。
具体的には、赤くなっている場所は右足の甲の、足首にかなり近い部分で、やや内側。そこに、全長3cmくらいの細長く、少しだけ足首に沿った形に曲がっている、その赤い部分があるのである。蚊に食われたのであれば、こんな形に腫れることはないだろう。
例えて言うなら、赤いにっこりと笑った口、あるいは赤い三日月。これはひょっとすると、身体の一部に三日月形のアザが浮かび上がったことで、その日を境に不思議な力が発現したり謎の組織に狙われたり世界を守る勇者に誘われて冒険に出ることになったりするのだろうか。
観察すると、その赤い部分は少し膨らんでいて、靴擦れと似ていた。そういえばこの日、私は外を歩き回っており、その際にくるぶし丈の靴下を履いていた。その靴下の履き口が、ちょうどこの赤い三日月の部分なのである。靴擦れならぬ、靴下の履き口擦れというわけだ。
分かってしまえば実に現実的な現象であった。しかし、頭をよぎった非現実的な妄想も悪くなかった。中年になって久しいが、私は未だ少年のような冒険心を持っていたのだ。実際に勇者に誘われたとして、肉体的について行けるかどうかは甚だ不安なのだが。