電車賃が値上がりしていた。1年半も前に、である。そのことに気が付かずに過ごしていた、という事実を知り、まずは素直に驚いた。そして次に、どうしてそんなにも長い間、気が付かなかったのだろうか、と自らの愚かさを恥じた。ここでは改めて、その理由を考察してみたい。
第一に、電車に乗る頻度が数年前から減っていた。新型コロナウイルスの影響で、外出の自粛が呼びかけられ、テレワークが普及したからだ。これは毎朝、通勤ラッシュの電車に揺られて会社へ向かう必要が無くなった、ということだ。私は積極的に在宅で勤務した。実に快適であった。
私は在宅勤務が大好きで、ずっとこのままでも構わないと思っていたが、世の中の人々は違った。新型コロナウイルスの脅威が弱まると、電車の通勤ラッシュが復活した。私自身も出社の義務が生じたので、毎日ではないものの、再びあのラッシュへ身を投じることとなった。
通勤はまだ毎日ではなく、定期券はかえって損をするので買っていない。これが値上がりに気付かなかった第二の理由である。そして第三には、電車賃をICカードで支払っていたこと。乗車のたびに切符を購入していれば、値上がり時に気付いたはずだ。ICカードが快適なので、ありえない仮定だが。
快適さに慣れるのは、堕落とも言える。こうして私は、値上がった電車賃を、そういう意識を持たずに1年半もの間、漫然と支払い続けていたのだ。とはいえ電車以外の交通手段は無いし、そもそも値上がり自体に文句は無い。ただただ私が堕落した愚か者というだけのことである。