歯が欠けた。右の、下の、奥歯である。何か特別なことをしたから、というわけではない。いつものように、少し硬いものを奥歯で嚙み砕こうとしたところ、嫌な響きというか音というか、とにかく何かヤバい感じがした。恐る恐る口の中を舌で探ると、奥歯の一部が無くなっていた。
今にして思うと、前兆はあった。少し前から、そのあたりの奥歯にモノが挟まることが多くなっていたのだ。初めのうちは一回一回丁寧に取り除いていたのだが、やがて面倒になり、どうせ次また挟まるのだから、という謎の理屈で放置し始めた。これが良くなかったのだろう。
幸いなことに、歯が欠けたことによる影響は少ない。何もしていない時には痛みは無いし、奥歯なので口を大きく開けなければ他人に妙な印象を与えることも無い。しかし、冷たかったり熱かったりする液体は沁みるし、右の奥歯でモノを噛むのが怖い。できれば何とかしたい。
病気や怪我であれば人間の持つ自己治癒力でどうにかなることもあるが、歯に関してはどうにもならない。なので歯医者を頼ることになるが、私はこれまでの人生でほとんど歯医者にかかったことが無い。15年くらい前に行った歯医者がストレスフルで、それ以来、避けてきたのだ。
引っ越したこともあり、近所にそもそも歯医者があるのかどうかすら知らない。聞くところによると歯医者はコンビニエンスストアより多いらしいので、探せばきっと何軒かは見つかるだろう。あとはそこが、以前の歯医者のように精神的苦痛を伴う場所でなければ良いのだが。