カレーの店でカレーを食べる

以前から、その店の前を通りかかる度に何となく気になっていた。あるビルの地下にあるレストラン街の一角、それなりに年季の入った看板には店名の前に『カレーの店』と入っている。僕はその文字列を見て「なるほど、ここはカレーの店なんだな」という文字通りの感想を抱きつつ、結局そこへは入らず他の店に入ることを何度か繰り返していた。ある日、僕は別にそこまでカレーが食べたい気分ではなかったのだが、せっかくその店の近くに来ているのだし、これだけ気になっているのだから一度は入ってみよう、と心に決め、気軽にその店に入ってみた。

店内はそこまで広くはない。コの字型のカウンターが中央に出っ張っていて、そのカウンター15席くらいが座席のすべてである。遅いお昼くらいの時刻に入ったので、店内に他の客は5名ほど。僕は適当に右奥の席へ座り、カウンターの上にあるであろうメニューを探したが、見つからない。すぐに店員が「いらっしゃいませ」とお冷を置いた後、じっとこちらを見る。どうやら注文を待っているらしい。しかしメニューは見つからない。そういえば店頭に食品サンプルが並んだガラスケースがあったな、まさかそこで注文を決めてから店に入るシステムだったのか……? と内心で焦っていると、店員は視線で店内の一か所を見るよう促した。

そこは左奥の柱で、壁にメニューが掛かっている。なるほど、この店のメニューはそこにある1枚だけらしい。僕の座った席からは角度がキツい上に遠かったし、店員が「メニューも決めずに入ってきたのかよ、これだから素人は困る」というような雰囲気を醸し出していたので、全部で30品目ほどありそうなそのメニューをじっくり検討することはできそうになかった。そういえばここはカレーの店だったな、ということを思い出し、横書きのメニューの左上、つまり先頭に書いてある『カレー』の中から、その先頭にあった『カツカレー』を注文した。

カレー屋を名乗る店で、先頭にあるのがカツカレーというのも少し不思議な話だ。ポークとかビーフとかチキンとか、ダルとかサグとかマトンとか、そういったカレーの種類を表す文言は見当たらない。それだけこのカレーの店がカレーに自信を持っているという事なのか。そういえば、カツの部分についても情報が全く無い。トンカツなのかチキンカツなのかハムカツなのか、それすらも店にお任せという事なのか。いや別に日替わりというわけではなく、いつも同じカレーで同じカツのカツカレーなのだろうが。

などと考えているうちにカツカレーが来た。カツは薄めの仕上がりで、カレーは辛めの仕上がりだった。そして正直なところ、カレー屋のカツカレーにしては全体的にイマイチだった。少し残念な気持ちでそのカレーを食べていると、店に新たな客がぽつぽつと入ってきた。どの客も、店に入るなり注文をしているので、常連らしい。そしてどの客も、カレーを注文しない。この店にはカレー以外にも、普通の洋食屋さんのようなメニューが一通りそろっているらしい。常連がみんなカレーを注文しないカレー屋、そこでカレーを注文する私。ここはカレー屋のはずなのだが、何かを間違えたような気持ちになった。

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